天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 - 文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」(平成23~27年)

天然物ケミカルバイオロジー次々世代

大阪大学大学院理学研究科
化学専攻天然物有機化学研究室(深瀬研究室)、D2
理化学研究所田中生体機能合成化学研究室、研修生
岩田 隆幸

研究内容

タンパク質リン酸化に起因するシグナル伝達は成長、増殖、生死などを制御する極めて重要な経路です。特にがん細胞においてはこのシグナルが過剰に伝達され、細胞増殖やアポトーシス抵抗性を引き起こします。そのため、このリン酸化シグナルを遮断することは抗癌作用につながるため、非常に多くの研究例があります。しかし、一般的なシグナル遮断分子は、リン酸基認識タンパク質の認識ポケットに入り込む小分子(例えばリン酸化ペプチド)であることが多いですが、望みのタンパク質とは別のポケットにも入り込むなど、その選択性に問題がありました。そこで、私は鋳型誘起合成という方法を開発し、リン酸基認識タンパク質ではなくリン酸化タンパク質に結合する分子をコンビナトリアルケミストリーを利用して創成しました1)
鋳型誘起合成の概略を図に示しました。まず、アジド基を持つテンプレート1に鋳型(リン酸化タンパク質、もしくはペプチド)を弱い相互作用を用いて認識させます。その後、幾つかのアセチレンライブラリー2を同時に作用させると、このライブラリーの中から鋳型にうまくフィットする分子だけが選択され、続いてテンプレートとライブラリーの間でクリック反応が起こり、結果として鋳型を選択的に認識する分子が得られます。私はこの鋳型誘起合成を用いることで、Grb2のSH2ドメインの疑似ペプチド3を見出しました。この疑似ペプチドは鋳型に対して数μMの解離定数を持ち、ビオチンによる結合タンパク質の釣り上げ実験の結果、細胞内ではShcに結合することがわかりました。さらに、配座を固定化した疑似ペプチド4では、解離定数を数百nMへと向上させることもできました2)
一方、A431癌細胞(Grb2/SH2が細胞増殖に大きく寄与する)に対して疑似ペプチド3,4を作用させると、顕著な細胞増殖抑制活性やアポトーシス誘導活性を示すことが判明しました。さらにA431癌担持マウスに疑似ペプチド3を投与したところ、他の臓器に全く影響を与えず、A431癌の体積増加のみを顕著に抑制することがわかりました。

1) Tanaka, K.; Shirotsuki, S.; Iwata, T.; Kageyama, C.; Tahara, T.; Nozaki, S.; Siwu, E. R. O.; Tamura, S.; Douke, S.; Murakami, N.; Onoe, H.; Watanabe, Y.; Fukase, K. ACS Chem. Biol. 2011, 7, 637-645.
2) Iwata, T.; Tanaka, K.; Tahara, T.; Nozaki, S.; Watanabe, Y.; Fukase. K. Mol. BioSyst. 2013, 9, 1019-1025.

研究者としてのひとことアピール

私はこれまでに前述の研究に加え、海洋産アルカロイドの合成研究、共役イミンの反応性に関する研究に従事し、有機合成化学から基礎的なケミカルバイオロジーまでを学んできました。私の興味はどちらかと言いますと有機化学に寄っており、他の多くの人たちと同様に、有機合成化学を使って天然物化学およびケミカルバイオロジーに対してアプローチすることに強い興味を持っています。つまりは有機合成という手段に拘って、何ができるのか、または自分が何をすべきなのかを考えてきました。今後は特に、これまでとは違った方法を用いたアルカロイド、複素環、糖鎖の合成に挑戦してみたいです。

将来の夢

私の夢は有機合成をレゴや積み木のようにブロックを組み合わせる感覚で利用できるようにすることです。現在の有機合成は単純な化合物の合成であっても、多くの方法論(例えば保護基など)を必要とし、専門家以外には非常に使いにくいツールであると思います。実際、アッセイなどのバイオロジーを学んだ合成化学者が増えている一方で、有機合成を利用するバイオロジストというのは非常に限られています。これまで以上に直感的で簡便な合成をおこなうためには、特別なテクニックを必要とせず、市販の試薬をただ混ぜ合わせるだけで、官能基選択性、立体選択性などを保証できる反応が必要であり、さらには、C-H活性化反応以上の現在難しいと思われている反応を見出さなければいけません。私はこのような有機合成の可能性を広げる研究を行い、その結果として、いずれは分子模型を作る感覚で有機合成を利用できるようにしたいです。


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